鉄骨造(S造)は鉄筋コンクリートと並んでビルやマンションの建物によく使われている造りです。 新築の際は鉄筋コンクリート(RC) に比べて短い工期で完成させることが出来、建設費用も安い為、収益物件には多用される造りでもあります。
鉄骨造のビルやマンションで外壁がタイル張りになっている建物の壁には大抵下地の壁材が「ALC」と呼ばれる素材になっています。このALCですが、セメントに気泡を織り込んで製作された素材でコンクリートよりかなり軽いのが特徴です。その反面コンクリートほどの強度はありません。
鉄骨の柱、梁を基準にALCの壁を張り巡らしたものを「鉄骨ALC造」と言います。鉄骨ALC造で建物の外装の仕上げがタイル張りになっている場合は、現場でALC壁設置後、現場打ち込みでタイルを張って行き外装を仕上げて行きます。
本記事では、ALCの素材の特徴を踏まえ、鉄骨ALC造のビルやマンションにおけるタイル張り替えの改修工事を解説していきたいと思います。
■ALC下地にタイルが貼ってある場合のタイルの不具合の特徴
鉄骨ALC造のビルやマンションでALCを外壁材とする場合、ALC板を縦張りに組んでいく場合がほとんどだと思います。これは上階と下階の鉄骨に固定用の器具で固定するだけですので非常に楽に納めることが可能だからです。
□ひび割れ(クラック)
ALC下地のタイル面にヒビが入る場合、往々にしてありがちなのがALCとALCの繋ぎ目(ジョイント)の真上にタイルが貼ってある場合です。
ALC板自体は基本的に建物の強度を担っている訳ではなく、実際に強度を担保しているのは鉄骨の柱や梁となります。あくまでALC板は遮蔽物としての役目を果たすのみですので、地震等で建物が揺れますと建物の揺れに応じてALCの壁自体も揺れます。そして最も揺れの影響を受けるのが「 ALCとALCの繋ぎ目(ジョイント) 」です。
場合によってはALCの繋ぎ目に沿って貼ってあるタイルの表面に何メートルもひびが入ってしまう場合もあります。
もちろんALC板そのものにひびが入ったり、ALCジョイントとは関係なくひびが入る場合もありますが、圧倒的にALCジョイント上のタイルにヒビが入る可能性が高いです。
□タイル浮き
タイル浮きに関しても同様に ALCとALCの繋ぎ目(ジョイント) に浮きが発生する場合が多く見られます。原因はひび割れの場合と同様ですが、結局のところ地震などの影響で建物が大きく揺れた場合ALC板ジョイント上のタイルにヒビが入るのかヒビが入らずに浮いてしまうのかということになります。
そして、浮きの場合もひび割れの場合と同様に、ALC板上のタイルが浮くこともありますが、圧倒的にALCジョイント上のタイルが浮くことが多いです。
近年では、新築時ALC下地にタイルを張る場合、ALCとALCの繋ぎ目にはあえてタイルを張らない割り付けでタイル張っている鉄骨ALC造のビルやマンションが多く見受けられます。
新築時、外壁ALC板を縦張りの納まりで設置した場合、ALC板は60㎝間隔で縦のジョイントが出来る形になります。その60㎝毎に縦目地のシーリングを設置することでその部分にタイルを張る必要がない納まりで設計されている形になります。
そうなると理論上はALCジョイント上にタイルが貼られていることはないのでその部分に関してのひび割れや浮きは発生しないことになります。
これまでもタイルの落下等の不具合については建築上の大きな問題になってきておりましたので、こういった設計上の工夫によりどんどん改善がなされていくものと期待されます。また、修繕工事を行う側もどのように改修すれば不具合の再発を防げるかを考えながら工法提案をしていく必要があるのかもしれません。
■外装タイル張り鉄骨ALC造におけるタイル補修工事
ALC下地にタイルが張り付けている場合のタイル補修工事について、鉄筋コンクリート面の補修と違って基本的にはエポキシ樹脂注入ピンニング工法は適用できません。
タイル面のエポキシ樹脂注入ピンニング工法について知りたい方はこちら≫
これは、ALCが比較的柔らかい素材である為、硬化するとコンクリートと同等程度以上の強度になるエポキシとの相性が悪く、注入して広範囲に広がったエポキシが硬化する際の収縮で柔らかいALCが破断を起こすとか、ALCの気泡にエポキシが吸い取られてしまい接着力を発揮できないとか言われています。このことに対して一度、問屋さんを通してメーカーに質問したことがあるのですが、何とも明確な回答は得られませんでしたがメーカー側もALCには使用しないでくれとの回答でした。
なんとも中途半端な回答ですが、とりあえずメーカーが推奨しない工法を行うわけにもいかない為、弊社では基本的にALC下地のタイル面にはエポキシ樹脂注入ピンニング工法を行っておりません。
というわけで、ALC下地のタイル面におけるタイルの補修工事について解説したいと思います。
□タイル張替
先ほどご説明したようにALC面のタイルの補修にエポキシ樹脂注入ピンニング工法は適用できない為基本的にはすべて張り替えとなります。
浮いているタイルを斫っていきます。その際、旧タイル貼り付けモルタルが残っていると、タイルを張った際に旧タイル貼り付けモルタル分の厚み分盛り上がって張り付けてしまうことになる為、タイル貼り付けモルタルもきれいに剝がしとっていきます。
ALCは比較的脆い素材である為、タイルを斫る際に、一緒にALC自体もエグリ取ってしまう場合も多々あります。作業する側も極力気を付けて剥がしてはいきますがエグリ取ってしまった場合は補修が必要となります。
ひび割れたタイルが長く続いている部分の下地は往々にしてALC板のジョイント部分が絡んでいることが多くあります。このジョイント部分をシーリング処理してからタイルの張り戻しとなります。
ハイフレックスと呼ばれるモルタル用の接着剤的な役割を果たす液体を塗ります。下地がALC面の場合、ALC自体が吸い込みが激しい素材である為、接着力を確保するために必ず入れる工程です。
ある程度まとまった面積でタイルを張っていく場合は18枚1シート(長辺95㎜×短辺45㎜寸の45二丁と呼ばれるタイルのサイズの場合)の「シート単位」で貼っていきます。こうすることで18枚を一気に貼っていくことができます。
タイル貼り付け後、タイル目地材をゴム鏝を使ってタイルの上からタイル目地の溝に摺込むように充填していきます。充填後余分な目地材はスポンジ等で拭き取っていきます。
タイルを張り替える部分にシーリングが絡んでいる場合シーリング部分も打替する必要があります。タイル目地材が硬化後、タイル張り替えに伴いシーリングを撤去した部分に新規にシーリングを充填します。
タイル目地が乾燥し、タイル張替に絡むシーリング充填が完了した後に塩酸でタイルを張り替えた部分を洗浄します。これは、タイルを張り替えた部分のタイル目地が白華(エフロレッセンス)するのを防止する為です。タイルの枚数が少ない場合はそれほど気になりませんが、大きな面積でタイルを張り替えた場合は張り替えた部分のタイル目地がかなり白くなってしまいますので非常に重要な工程となります。
また、この塩酸アク洗いの工程は必ず「シーリング工事が終わった後に行う」必要があります。理由は、タイルを洗う際の塩酸の影響でシーリングの養生テープがタイルに付かなくなってしまいシーリング工事に支障をきたしてしまう為です。
かなり浮きが酷かった斜壁部分ですが、打診・目視調査に手浮き部分を特定、浮いている部分についてはすべて張り替えて工事が完了しました。
■まとめ
一部特殊工法を除いて、ALC壁にタイルが貼ってある場合の補修方法は、原則タイル張替となります。ALC壁は60㎝幅のパネルを貼り合わせて壁面を形成していく為、パネルどうしのつなぎ目部分(ジョイント)には大きな挙動が発生します。そのジョイント部分にタイルが貼ってある場合にはタイル自体も挙動の大きな影響を受けてひび割れや浮きを発生させます。
ALCはその素材的な特徴からエポキシ樹脂注入ピンニング工法は原則適用できず、基本的にはタイル張替工法となり大きなコストがかかります。
現在では、ALCのつなぎ目部にはタイルを張らない形で意匠設計された鉄骨ALCの建物が建っており、ALC壁のタイルの浮きやひび割れはかなり少なくなってきています。
オフィスチャンプでは比較的コストのかかるタイル張替工事を足場を掛けずに割安で施工させていただいております。ただ安いだけではなく、技術と経験に裏打ちされた内容で「安かろう悪かろう」の施工とは無縁です。「タイルが剥がれ落ちてきて危ないので補修してほしい」「ところどころタイルのひび割れが目立ってきたので調査・補修してほしい」などタイル工事の事でお困りのことがあれば、お気軽にお問い合わせください。