マンションやビルなどの大規模修繕工事において、施工会社との間にコンサルタントを導入することには、大きなメリットがあります。しかしその一方で、コンサルタントの選定は、慎重に行なう必要があるのも事実です。
この記事では、大規模修繕工事におけるコンサルタントについて、導入するメリットや費用の相場、依頼できる具体的な業務内容や選定方法のポイントなどを詳しく解説します。
大規模修繕工事を控え、コンサルタントの導入を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
■大規模修繕工事のコンサルタントとは?
大規模修繕工事におけるコンサルタントとは、修繕工事をスムーズに進めるためのサポート役にあたる人や企業のことです。工事の発注者(マンションの管理組合など)から依頼を受けたコンサルタントは、工事開始前の準備段階から工事中、また工事完了後のアフターサポートまでを幅広く担当します。
大規模修繕工事のコンサルタントを請け負うのは、コンサルタント専門会社や設計士事務所、建築士事務所、建物の管理会社などが一般的です。専門知識を備えた第三者視点を持ち、工事を行なう施工会社との間に立ってくれる頼もしい相談役ともいえるでしょう。
大規模修繕工事コンサルタントに依頼できる、具体的な業務内容については後述します。
■コンサルタントは大規模修繕工事に必須?
大規模修繕工事のコンサルタントは、必ずしも必要なわけではありません。工事の発注方式によっては、コンサルタントなしでも大規模修繕工事は可能です。
工事の発注方式は、おもに以下の2パターンがあります。
- 設計監理方式:
大規模修繕工事の発注者である管理組合と、工事を行なう施工業者の間に、第三者としてコンサルタントが存在する
- 責任施工方式:
工事受注者である施工業者が、コンサル業務を含む一連の業務を請け負う
責任施工方式の場合、第三者としてのコンサルタントは不在であるため、工事の発注者である管理組合と、工事受注者である施工業者が直接やりとりを行ないます。ただし、どこまでの業務を請け負えるかは、施工業者によって異なります。
■大規模修繕工事にコンサルタントを導入するメリット
大規模修繕工事にコンサルタントは必須ではないものの、導入するメリットは多くあります。
・協議を効率的に進められる
コンサルタントを導入しなければ、工事発注者は施工会社と直接協議を行なう必要があります。一方、コンサルタントを導入すれば、施工会社との話を取りまとめて報告してくれるため、協議が効率的に進むでしょう。また、発注者の作業負担も大幅に軽減されます。
・第三者視点からのアドバイスが得られ、資金の有効利用にもつながる
大規模修繕工事の協議内容は専門的で、工事の知識がない素人には判断が難しいことも少なくありません。コンサルタントを導入することで、第三者視点を持った専門家からのアドバイスを受けられます。
資金を有効利用できるコンサルタントが建物の状況を判断した結果、当初の予定よりも修繕工事を行なう範囲が狭くなったり、工事期間を先送りしたりすることもあります。
専門家の適切な判断によって長期的な計画を立てることで、長年積み立ててきた修繕費用を無駄なく有効利用できるでしょう。
■大規模修繕工事におけるコンサルタント費用の相場
メリットの多いコンサルタントですが、導入するためには当然、大規模修繕工事の費用とは別にコンサルティング費用を用意する必要があります。
大規模修繕工事におけるコンサルタント費用の相場は、工事費用総額の5~10%程度であることが一般的です。例えば、工事費用の総額が3,000万円の場合、コンサルタント費用は150~300万円を目安とするとよいでしょう。
ただし、コンサルタントの依頼先や大規模修繕工事の内容、建物の条件などによってコンサルタント費用も大きく異なります。必ずしも相場の範囲に収まるとは限らないため、事前に具体的な費用を確認したうえで、依頼するかどうかを判断してください。
■【大規模修繕工事】コンサルタントに依頼できる業務内容
大規模修繕工事のコンサルタントに依頼できる業務内容について、大まかな流れに沿って解説します。なお、業務内容はあくまで一般的なものであり、どこまでの業務を請け負えるかは依頼先によって異なります。
◇建物および設備の調査・点検・診断
まず行なわれるのが、大規模修繕工事を行なう前の建物および設備について、劣化具合などの現状調査および点検です。実際の現場に立ち入っての目視調査、機器を用いた点検などに加え、建物利用者(マンションの場合は住民)への聞き込み調査なども行ないます。
調査や点検の結果をもとに、工事を行なうべき範囲や適切な時期など、大規模修繕工事の必要性を専門家の視点から診断するのが、コンサルタントの役割です。
◇修繕計画・設計書の作成
診断結果やこれまでの修繕履歴などから、以下のような点について、大規模修繕工事の具体的な計画を提案します。
- 修繕方法:使用する資材や、用いる工法などについて
- 修繕費用:工事費用の概算や、工事予算の内訳について
- 修繕期間:工事すべきタイミングや、予定する工事期間について
コンサルタントからは複数の修繕計画が提示され、依頼主と協議を重ねながら修正を繰り返し、最終的な工事計画を作成します。
さらに、最終案に基づく設計図書の作成もコンサルタントが行ないます。設計図書は、修繕工事を依頼する施工会社へ見積りを依頼するために必要な書類です。
◇施工会社の選定サポート
工事を行なう施工会社は、慎重に選定すべきです。コンサルタントは、以下のような施工会社選びの各過程でもサポートを行ないます。
- 見積りを依頼する施工会社を選定
- 見積り依頼書の作成および依頼
- 見積り書を比較して選定
- 施工会社へのヒアリング
- 最終的に依頼する施工会社を決定
施工会社が決定することで工事費用が明確になり、最終的な承認を経て工事が開始されます。承認を得るための資料作成なども、コンサルタントが行なうことが一般的です。
◇工事監理業務
工事監理とは、設計図書に基づいて工事が正確に進められているかを確認する、重要な業務です。コンサルタントは、工事着工前の準備から工事完了後の引き渡しまで、専門家の視点で細かにチェックします。
・修繕工事開始前
工事の発注者と施工会社の間で交わす工事請負契約書の内容を、詳細に確認します。
また、施工会社と工事計画について打ち合わせをしたり、住民説明会に参加して資料の確認をしたりするのもコンサルタントの役割です。
・修繕工事開始後
定期的に現場を巡回し、修繕工事に使用している資材の品質や進捗状況などを確認し、定例会議で発注者に報告します。場合によっては、三者(発注者、施工会社、コンサルタント)間の会議を設けることも珍しくありません。
・引き渡し
工事完了後に行なわれる竣工引渡検査に立ち会い、発注者とともに最終的な確認を行ないます。また、施工会社が提出する竣工引渡図書の内容を精査することが、工事後のトラブルを未然に防ぐことにつながるでしょう。コンサルタントからは、工事監理業務の内容を取りまとめた報告書を提出します。
◇工事後の検査・点検(アフターフォロー)
大規模修繕工事は、完了後も工事保証年数に応じた定期的な検査・点検が必要です。
コンサルタントは、施工会社によるアフター点検が正しく行なわれているか確認するために、検査現場に立ち会います。補修工事が行なわれた場合は、問題点が是正されたことを見届けます。
■【大規模修繕工事】コンサルタントを選ぶ際の5つの選定基準
重要な役割を担う、大規模修繕工事コンサルタントを選定する基準について解説します。
◇コンサルタントの実績があるか
コンサルタント業務の過去の実績は、選定基準としてわかりやすい指標です。ただし、大規模修繕工事を行なうビルやマンションは、建物の特徴が多種多様であることに加え、工事内容は多岐にわたります。全体の実績数だけでなく、大規模修繕工事を考えている物件と類似ケースのコンサルタント実績について確認すると、より安心できるでしょう。
また、大規模修繕工事は一度きりではなく、定期的に行なうものです。同じ依頼主から何度も、コンサルタントを依頼されていることがわかれば、顧客の満足度が高いことがわかります。リピート率についても、提示してもらうとよいかもしれません。
◇マンション管理・ビル管理の知識があるか
大規模修繕工事コンサルタントは、マンション運営やビル管理の知識も持っていることが理想的です。
コンサルタントは、管理組合の代理として施工会社とさまざまなやりとりを行ないます。そのため、管理組合側の意向を深くくみ取るためには、建築や工事の知識だけでは不十分です。依頼主である管理組合の意向に沿った提案や交渉を行なえるコンサルタントを探すためには、マンション運営やビル管理についての専門性も確認しましょう。
◇コンサルタントが有資格者であるかどうか
コンサルタントの専門性を示す基準として、関連分野の資格保有者であるかどうかを確認することは重要です。
実は、大規模修繕工事コンサルタントの業務に対して、必須の資格はありません。
一級建築士やマンション管理士などが請け負うことが一般的とはいえ、コンサルタントを名乗っている人が全員、これらの資格を必ず保有しているわけではない点に注意が必要です。おもな業務の担当者について、保有資格を確認するようにしましょう。
◇コミュニケーション能力があるか
大規模修繕工事コンサルタントは、工事の発注者である管理組合と、受注者である施工会社の間に立ってさまざまな協議を行なうため、高いコミュニケーション能力も求められます。
特に工事の発注者は、工事に関してはまったくの素人であることがほとんどです。そのため、大規模修繕工事についての専門的な話を、素人にもわかりやすく伝える能力が必要不可欠です。
◇公平性や中立性が維持できるかどうか
コンサルタントは、公平性と中立性をもって施工会社を選定するべきですが、残念ながらそれを見極めるのは難しいのが現実です。公平性の保たれないケースとしては、例えば以下のようなものが挙げられます。
- コンサルタントと利害関係のある施工会社が採用されるように操作する
- コンサルタントへのバックマージンを目的に不必要で高額な工事を発注させる
- コンサルタントが施工会社内部の人間だった
このような不正を容認しないためには、管理組合だけでなく、住民も含めできるだけ多くの人の目でチェックすることが望ましいでしょう。また、セカンドオピニオンとして、他のコンサルタントにも意見を求める方法も有効です。
■まとめ
大規模修繕工事コンサルタントは、工事発注者からの依頼を受け、さまざまなサポートを行なう相談役です。
コンサルタントの導入によって、専門家の視点を持った第三者からのアドバイスを受ければ、適切な修繕工事を行なう手助けとなるでしょう。
コンサルタントを選定する際には、類似ケースの大規模修繕工事についての実績や、専門資格の有無を確認することが重要です。また、コンサルタントとして重要なコミュニケーション能力や、公平性を持っているかなどについても、必ず確認しましょう。