ビルやマンションでは、安全面や機能面を維持・向上させるため、定期的に「大規模修繕」を実施します。大規模修繕での補修箇所は多岐にわたるため、まとまった費用が必要です。
本記事では、大規模修繕の基礎知識とともに、大規模修繕にかかる費用の目安や、費用を抑えるポイントなどを中心に解説します。マンションを所有するオーナー様など、将来の大規模修繕に関する知識を得たいとお考えの方は、ぜひ参考にしてください。
■そもそも大規模修繕とは?
初めに、大規模修繕の基礎知識として、大規模修繕の概要や必要性、おもな補修箇所について解説します。
◇大規模修繕の概要と必要性
大規模修繕とは、ビルや分譲マンションを対象に、経年劣化による建物の傷みや不具合を防ぐために行なわれる、大規模なメンテナンスのことです。
建物は使用の有無や程度に関係なく、年月が経つにつれ劣化が進んでいくため、定期的なメンテナンスをしなければ、安全面や機能面に問題が出てきます。定期的に大規模修繕を行なうことで、ビルの利用者やマンションの居住者の安全を守るとともに、建物の資産価値を維持・向上させられるでしょう。また、劣化を放置したために必要以上に補修費用がかさんでしまった、という事態を防げるメリットもあります。
なお、大規模修繕は、10~15年程度の間隔で行われるのが一般的です。
◇大規模修繕のおもな補修箇所
大規模修繕で補修対象となるおもな箇所は、以下のとおりです。
- エントランスホール、ラウンジ
- 共用廊下、階段、エレベーター
- 非常口、非常階段
- 会議室、集会室
- 駐車場、駐輪場
- 電気やガスの配線、配管
- 給水管、排水管
- 各部屋のベランダ、バルコニー、窓のサッシ、玄関ドア
- オートロックなどのセキュリティシステム
- 外壁、屋根、屋上
- 防火施設
これらの補修内容としては、エントランスホールのクリーニング、エレベーターの交換、外壁の塗装やひび割れ補修、屋上の防水工事、給水管や排水管の取り替えなどが挙げられます。
また、利用者や居住者の高齢化に対応するため、建物全体のバリアフリー工事 などを実施することもあるでしょう。
バリアフリー工事では、手すりの設置や出入口の自動化、通路の幅の拡張などを行ないます。
■大規模修繕の費用目安はどれくらい?
大規模修繕にかかる費用は、建物の規模や工事内容、大規模修繕の実施回数、外部へのコンサルティング業務委託の有無などの条件によって、大きく変動します。
その前提を踏まえ、大規模修繕の費用目安をさまざまな観点から確認していきましょう。
◇大規模修繕の費用目安
2017年5~7月に国土交通省が実施した「マンション大規模修繕工事に関する実態調査(※1)」の結果を見ると、大規模修繕にかかる費用の傾向がわかります。
具体的には、1戸あたりの大規模修繕の費用について、以下の結果となりました。
<1戸あたりの大規模修繕の費用>
- 調査対象のマンションのうち30.6%が75万~100万円で実施
- 調査対象のマンションのうち24.7%が100万~125万円で実施
- 調査対象のマンションのうち13.8%が50万~75万円で実施
この調査では、耐震改修工事を除いた計画修繕費用やグレードアップのための改修工事費用を対象としています。
調査結果から、1戸あたり75万~100万円で大規模修繕を実施したマンションが最も多いことがわかりました。
仮に、1戸あたり100万円で大規模修繕を実施する場合、住戸数が100戸なら1億円が目安です。
大規模修繕の具体的な工事費用の内訳はケースによって異なりますが、全体で見ると外壁関係が24.0%、防水関係が22.0%、仮設工事が19.2%という内訳になっています。
◇大規模修繕の費用目安は、修繕の実施回数によっても異なる
国土交通省の同調査によると、大規模修繕にかかる費用の目安は、修繕の実施回数によっても異なることがわかっています。
具体的には、以下の結果となりました。
<大規模修繕の実施回数と費用>
- 1回目の大規模修繕にかかった費用の平均:1戸あたり100.0万円
- 2回目の大規模修繕にかかった費用の平均:1戸あたり97.9万円
- 3回目以上の大規模修繕にかかった費用の平均:1戸あたり80.9万円
前述のとおり、建物の規模や工事内容などによって費用は大きく変動しますが、上記結果から、大規模修繕は回数を重ねるごとに、かかる費用が安くなる傾向にあるといえます。
なお、工事費用の内訳を見ると、1回目と比較して2回目は給水設備関係、3回目以上は建具・金物関係の割合が大きくなるのが特徴です。
(※1)出典:国土交通省『マンション大規模修繕工事に関する実態調査』
◇大規模修繕の工事費以外に、コンサルティング費用がかかる場合もある
マンションの大規模修繕では、外部の設計コンサルタントに、建物の調査や診断、工事の計画、施工会社の選定、工事の進捗管理などを委託するケースもあります。
設計コンサルタント業務を請け負う会社の例として挙げられるのが、専門のコンサルタント会社やマンションの管理会社、一級建築士事務所などです。
このような会社にコンサルタント業務を委託する場合、先に紹介した大規模修繕の工事費
用に加え、コンサルティング費用も支払わなければなりません。
工事費用と同様に、コンサルティング費用も依頼先や建物の条件などによって異なるものの、ざっくりとした目安は、大規模修繕費用総額の5~10%程度といわれています。
金額としては、数十戸程度のマンションなら数百万円、数百戸程度の大型マンションなら1,000万円以上かかることもあるでしょう。
専門知識や経験が豊富なコンサルタントへ委託すれば、大規模修繕をスムーズに進められるメリットがあります。一方で、委託する分、相応の報酬が発生することも、あらかじめ理解しておかなければなりません。
■大規模修繕の費用はどのようにしてまかなう?
マンションの大規模修繕では、マンションを購入した居住者から毎月徴収する「修繕積立金」を工事費用に充当します。
修繕積立金は、将来的な大規模修繕に備えて計画的に積み立てていくものです。
修繕積立金の額は、各戸の専有面積に応じて定められるため、専有面積が広ければ広いほど、居住者が負担する金額も大きくなります。
また、月々の修繕積立金の負担を軽減するため、新築分譲時に「修繕積立基金」などの名目で、数十万円程度の一時金を徴収しているケースもあるでしょう。
大規模修繕の費用は、こうした修繕積立金や修繕積立基金などによりまかなわれています。
なお、修繕積立金の金額設定はマンションによって異なりますが、参考となるのが、国土交通省の「平成30年度マンション総合調査結果(※2)」です。
調査結果によると、駐車場使用料などからの充当額を除く1戸あたりの修繕積立金の平均額は、月額11,243円でした。
建物の形態別では、単棟型は月額11,060円、団地型は月額12,152円となっています。
(※2)出典:国土交通省『平成30年度マンション総合調査結果〔概要編〕』
■大規模修繕の費用を抑えるポイント
大規模修繕の費用を抑えるポイントは、次の3点です。
- 必ず相見積もりをとって費用を比較する
- 業者にすべて丸投げはしない
- 明瞭な見積書を出してくれる業者を選ぶ
それぞれのポイントについて、以下で詳しく解説します。
◇必ず相見積もりをとって費用を比較する
大規模修繕は、選定する業者によって数百万~数千万円もの費用の差が生じる場合があります。特に、マンションの規模が大きくなればなるほど、その差も大きくなるでしょう。
手間や時間はかかるものの、納得のいく費用で大規模修繕を実施するためには、複数の業者から見積もりをとることが重要です。見積もりを慎重に比較検討することで、大規模修繕にかかる費用を抑えられるだけでなく、信頼できる業者を見つけることにもつながります。
◇業者にすべて丸投げはしない
大規模修繕を施工会社などに一括して依頼する場合でも、丸投げするのはおすすめできません。丸投げしてしまうと第三者の客観的なチェックが入らないため、万が一、相場を逸脱した金額を請求されても、なかなか気付けない危険性があるためです。
大規模修繕の知識は専門性が高く、素人には難しい部分もありますが、不必要な工事が計画されていないかなど、必要な費用とそうでない費用を見極めるよう心がけましょう。
◇明瞭な見積書を出してくれる業者を選ぶ
前述のとおり、複数の業者から相見積もりをとって費用を比較することは大切ですが、合計金額だけに注目するのは危険です。
合計金額が安いからといって、何にどれだけの金額がかかるのかが明瞭ではない業者を選んでしまうと、あとから追加工事費用を請求される可能性や、安全面での懸念も残ります。
結果的に、適正価格がわからないまま、必要以上の費用をかけてしまうことにもなりかねません。
したがって、できる限り詳細に項目分けされた見積書を提示してくれる、良心的な業者を選ぶことが大切です。
■まとめ
大規模修繕は、ビルの利用者やマンションの居住者の安全を守るとともに、建物の資産価値を維持・向上させる目的で実施するものです。
大規模修繕にかかる費用は、建物の規模や工事内容、実施回数などのさまざまな条件によって変動します。
費用を抑えるためには、複数の業者から明瞭な見積もりをとり、比較検討することが大切です。加えて、業者にすべて丸投げしないこともポイントとなるでしょう。
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「大規模修繕をしたいけれど予算が確保できない」「ほかの業者に出してもらった見積もりが明瞭でない、納得がいかない」という方は、ぜひお気軽にご相談ください。
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