ビル・マンションの大規模修繕工事において外壁タイル面の補修は必須といっても過言ではありません。
外壁のタイルの不具合「浮き」「ひび割れ(クラック)」などを放置しておくと建物に水が廻り建物自体が劣化するだけでなく、タイル自体の落下による第3者災害を引き起こしてしまうことも十分に考えられます。
本記事では外壁タイルの浮き方の違いによる補修方法の違いを解説していきたいと思います。大規模修繕工事や外壁タイル面の補修をご検討されている方のご参考になれば幸いです。
■タイルの浮き
外壁タイルの浮きについて、大きく分けて「下地浮き」と「陶片浮き」の2種類の浮きが存在します。まずはその浮き方の違いから解説したいと思います。
◎下地浮き
下地浮きとは外壁にタイルを張り付けるためのモルタルと躯体間に浮きが存在する場合を指します。上記画像では②と③が浮いている場合を指します。コンクリート躯体と躯体の調整・補修モルタルが浮いている場合も下地浮きとなります。上記画像では①と②が浮いている場合を指します。最近は躯体の精度が高い為、躯体の不陸調整・補修がかなり少なくなりましたので「 コンクリート躯体と躯体の不陸調整・補修モルタルが浮いている」パターンはかなり少なくなりました。
◎陶片浮き
陶片浮きとはタイルの貼り付けモルタルとコンクリートはくっついてる状態でタイルの貼り付けモルタルとタイル陶片に浮きが存在する場合を指します。上記画像では③と④が浮いている場合を指します。
◇タイルの浮きの原因について
①新築時の施工不良
鉄筋コンクリートの建物でコンクリート打設後型枠を解体しますが、型枠に塗布されている「離型剤」と呼ばれる成分がコンクリート方表面に残存したままの状態でタイルを張った場合に起こる浮きです。
また、タイル貼り付けモルタルを躯体塗り付けてから所定の時間内にタイルを張り付けなかった場合、モルタルから水分が失われ接着強度をなくしていくドライアウトという現象を伴った浮きも施工不良といえるでしょう。
②経年劣化
日が当たることにより膨張と収縮を繰り返していきますが、それにより付着する力が低下しタイルの浮きを起こしていきます。
③水が廻る
雨水等が目地より侵入してきた場合、気温差で膨張・収縮を繰り返し浮きを発生させます。
④地震
地震の強い揺れにより外的な力が加わることで付着力を失い浮きが発生します。
現在は日本建築学会のマニュアル改定によりコンクリート表面を超高圧洗浄等で目荒らし(躯体表面に傷をつけて仕上げ材の食いつきをよくする)を行うようになり、タイルを張るのに貼り付けモルタルから有機系接着剤の仕様が普及していることからタイルの浮きは少なくなっていくことと思われます。しかしながら人間が行う事ですので絶対はありません。
建築基準法第12条の改正で、特定建築物定期調査の定期報告に外壁全面診断が必要となりました。この調査で求められるのは外壁タイル面の不具合の詳細を追求するものではない為、この調査報告をもってすぐに大規模修繕工事や外壁タイル面の補修工事に使用できるものではありません。大規模修繕工事などを想定している場合は工事に直接必要な情報を提供できるレベルの施工会社に委託して調査する必要があります。
■外壁タイルの浮きの補修方法
外壁タイルの浮きには大きく分けて2種類あるという事は解説させていただきましたが、所謂「下地浮き」と「陶片浮き」では補修方法が異なります。実際どう違うのか解説してまいります。
◇下地浮きの補修方法
◎エポキシ樹脂注入ピンニング
振動ドリルや無振動ドリルを使用して、タイル目地からコンクリート躯体に30㎜程度達するぐらいに穴を開けます。(この穴あけ作業を「穿孔」と呼びます)穴を開ける箇所数は1㎡あたり25か所程度が一般的な穿孔数ですが、なかなか真四角に浮いていることは無く複雑な形に浮いているほど必然的に多く穴あけをする必要があります。また、場合によりもう少し細かいピッチで先行していくこともあります。
穴を開けた部分をエアダスター(スプレー)等で清掃し、専用のグリースガンを用いてエポキシ樹脂を注入します。
ステンレス製の全ねじピンを挿入して物理的にも固定します。最後にパテ状エポキシや目地材等で穴埋めを行い完成となります。
エポキシ樹脂注入ピンニング工法について別の施工事例はこちら≫
◎タイル張替
下地浮き状態でタイルを張り替える場合の弊社基準はいくつかありますが代表的なものとしては
①一つは誰が見てもわかるほど孕んでいて少し触っただけでもタイルが落ちてきそうな場合
②タイルの浮き代(浮いている隙間)が幅広くエポキシ樹脂を注入しても充填しきらない場合
③浮いている枚数が少なくエポキシを充填できるほどの浮き代が無いと判断される場合
④打診音で浮き代が少なく下地浮きの状態でもエポキシ樹脂が注入困難と判断される場合
となります。
①と②の場合は比較的多きな面積で浮いていることが多く、特に①の状態の場合は見た目にも浮いているのが分かるほどです。以下、比較的大きな面積を張り替える場合のタイル張替を解説したいと思います。
現状、タイルの孕みがひどく触れば落ちそうなものも多くありますので一気に崩してしまわないように気を付けてタイルを斫る必要があります。場合により、バラバラに崩れないように一度ガムテープなどで固定してから撤去する場合もあります。
タイル撤去後の躯体に電動工具で傷をつけていきます。これは躯体に傷をつけることによりタイル貼り付けモルタルの食いつきを良くする為と、躯体に残った型枠の離型剤を撤去する2つの役割があります。
この後、ハイフレックスと呼ばれる接着剤を塗布してからタイルを歪んで貼り付けないよう、縦横基準線を出しタイル貼り付けモルタルを塗っていきます。
タイル貼り付けモルタル塗布後、所定の時間内にタイルを張り付けます。基準としては、モルタル混練りから施工終了まで60分以内で使用、 塗り置き時間は、夏期で30分、冬期で40分以内という事になっています。画像のタイルは4 5二丁(若しくは50二丁)と呼ばれるサイズで 18枚1セットでシート状になっているものを貼り付けていきます。1シート18枚ですので1度の張りで18枚貼ることができる計算になります。
タイル貼り付け後、タイル目地を充填します。タイル目地の充填方法はいくつかありますが、45二丁タイルでの目地の充填方法はタイル貼り付け後タイルの上から擦り付けるようにして充填していきます。充填後スポンジで余分なモルタルを拭き取ります。
タイル貼りとしてはここで終わりなのですが、このままですと仮設を解体した際に張り替えた部分が拭き取り切れなかったモルタルでうっすら浮き上がって見えたり、タイル目地が白華現象を起こすことが多々ありますので塩酸で張り替えた部分を洗います。
タイル下地浮き状況下のタイル張り替えについて別の事例はこちら≫
◇陶片浮きの補修方法
◎タイル張替
陶片浮きについては基本的にエポキシ樹脂注入を行ってもエポキシが浮き代(隙間)に入っていかない為、タイル目地からエポキシを充填するエポキシ樹脂注入ピンニング工法は使えませんのでタイル張替となります。また、陶片浮きは比較的小面積での浮きが多く、タイル1枚1枚を斫りながら単体で貼っていくことが多いです。
陶片浮きと判定されたタイルを斫り取ります。問題ないタイルに傷をつけないよう、剥がすタイルの周りにディスクグラインダーで切り込みを入れてからタイルの貼り付けモルタル迄斫り取っていきます。
タイル斫り後、貼り付けるタイルの裏側に直接貼り付けモルタルを塗り付け斫った部分にタイルを張り付けます。この際、タイルが歪んで貼られていないか注意しながら貼っていきます。
最後に目地をタイル目地を入れて完了となります。
◎エポキシ樹脂注入ピンニング固定
この工法は弊社でも時々採用する工法で、タイルの表面、真ん中あたりに穿孔し、エポキシ樹脂注入後は特殊なキャップが付いているステンレスピンで穿孔箇所の蓋をして仕上げる工法です。
無振動ドリルと呼ばれる特殊なドリルでタイル表面に穴を開けていきます。こちらもコンクリート躯体に3~4cm程度の深さまで穴を開けていきます。
穴を開けた部分にエポキシを注入していきます。エポキシはタイル表面に付着してしまうとそれを落とすのが非常に困難な材料である為、穴を開けた部分に養生をしながらエポキシ樹脂を注入していきます。
先端にドッグキャップと呼ばれるキャップを付けたステンレス製全ねじピンを穿孔箇所に封入していきます。
施工後間近で撮影した写真ですので注入した場所が分かりますが少し離れればほとんど分かりません。
タイルの浮きのみを補修したいが量産品で近似品のタイルが無く、しかしながらなるべく外観は崩したくない場合に採用する工法です。タイルが目地無しの工法で貼られている場合もタイル目地からの注入が出来ませんので浮いているタイル1つ1つに注入していくこの工法を採用する場合もあります。
■まとめ
外壁タイル面の浮きの補修については、タイルの浮き方により補修方法がそれぞれ異なってきます。補修方法を決定する術となるのが外壁タイル面の打診調査の結果によるものですので外壁タイル面の補修は外壁タイル面の打診調査から始まっているといっても過言ではありません。
技能・教育・経験に裏打ちされた施工業者を選定していくことこそが適切な外壁タイル面の補修工事に繋がっていくと言えます。
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